目的: バルクの状態では非磁性を示す物質を強磁性体転移させる。またそのメカニズムの解明及び磁性制御
現在までに見つかっている元素の中で常温、バルク(非ナノサイズ)の状態で強磁性を発現する元素はFe,Co,Niの3種類だけであり、金属磁性材料として使われている化合物のほとんどもこれら3つの元素のどれかを含んでいます。我々、表面磁性班では非磁性体を強磁性体に変えること、またそのメカニズムを解明することにより新たな磁性材料の開発を目的としています。
非磁性体を強磁性体にするためには物質内の電子構造を変化させる必要があります。そのために我々の研究室では主に低次元化という手法を取っています。そのために我々は物質をナノサイズの系にまで小さくし、その磁性の研究を行なっています。
物質をバルクの状態から小さくすることにより、体積に対する表面積の増加などによって物質の性質が激変します。我々は化学的あるいは物理的手法を用いて幾つかの金属の低次元化に成功し、またそれらの磁性の変化を観測しました。例えばバルクの状態では常磁性体であるPdを擬零次元構造を持つナノ微粒子にすることで強磁性を発現させました。(PRL91,197201,2003)またNi薄膜の価数を制御するこ・Eニにより薄膜の磁性をコントロールすることに成功しました。(EJSSNT7,787-790,2009)
現在表面磁性班では物理的手法と化学的手法の両方を用いて微粒子、ナノワイヤー、薄膜を作製し、その磁性を調査しています。具体的にはAuとPdを低次元化させ磁性の変化を研究しています。Au微粒子の作製にはアルゴン雰囲気におけるガス中蒸発法を用いています。 MBE装置ではエピタキシャルな薄膜成長が可能であるため、配向性の高い平坦な面を持った薄膜の作製が可能です。現在はこの装置を用いてAuとPdの薄膜を作製し、その磁性の研究を行なっています。
Auナノワイヤーの作製は上記のような機材は用いずに化学的手法によって合成しています。作製されたナノワイヤーは直径2nm以下、長さ数程度のものでおもしろい磁性を示す可能性があります。右下図は我々の研究室がメインに使っている中央試験場にあるMPMSという機材です。これを用いて、作製した試料の磁気測定を行なっています。またPd薄膜に対して、第一原理計算を行い、その強磁性の起源を探っています。Pdは従来の研究によって強磁性を発現しやすい物質ということが知られていたので、どのような操作を行えば強磁性が発現するのかといったことがこの計算から明らかになることが期待されています。